ADHD(注意欠陥・多動性障害)の子を理解して育てる~症状・特徴・療育・相談機関について
ADHDをご存じでしょうか。ADHDは「注意欠陥・多動性障害」とも呼ばれ、集中力がない、じっとしていられない、衝動的な行動をしてしまうなどの特徴のある、発達障害のひとつです。
ADHDのある子が持つ特性とは個性とも障害とも受けとめることができますが、本来は人間が生きる上での力強さであり、ユニークな発想の源かもしれません。
ADHDの特徴をもつお子さんを理解するために症状・特徴・療育・相談機関についてご説明します。
「あれ?うちの子ってADHD?」と思う時
小学校2年生の息子は学校は大好きで元気に通っていますが、授業中にじっとしていられないので担任の先生は困っているようです。小さいときから、とにかく動きが激しくて、一瞬もじっとしていないので目が離せません。順番やルールを守れないので、最近お友達の輪から外れがちになっているようで心配しています。
ADHDの特性は「障害」と「個性」の境界線がつけにくいため「理解されにくく誤解されやすい障害」と言われています。
・落ち着きがない子
・じっとしていられない子
・とっぴな行動をする子
こうした様子はどんなお子さんにも見られる姿かもしれませんが、度を越えていたり、どんなに注意しても継続している場合には、個性の枠を越えてADHDの特性かもしれません。
乳幼児期(0-6歳)と児童期(6-12歳)のお子さんに見られるADHDの特徴は以下の通りです。
乳幼児期(0-6歳)の発達プロセスで気になること
・睡眠リズムが不安定
・よく泣き、パニックを起こしやすい
・歩きはじめのころから多動性・衝動性が目立ち始め、少しもじっとしていない
・手当たり次第にものを散らかす
・いきなり道路に飛び出す、一目散に走り出すなど目が離せない
・友達のおもちゃを取り合ったり、たたいたり、ひっかいたり、トラブルが絶えない
児童期(6-12歳)の発達プロセスで気になること
・生活リズムが乱れて夜更かしで朝起きられない
・一度ゲームにはまるとやめられない
・授業中に立ち歩いたり教室を飛び出したりする
・質問の途中で答えたり勝手に喋りだしたりする
・ふざけすぎて、たびたび度を越えてしまう
・うわの空でぼーっとしている
・パニックを起こしやすく、なかなかおさまらないで暴れたり物に当たったりする
・叱られることが多いため自己評価が低い
上記のような特性のため、生活に支障をきたしている状態が継続している場合には、まずはADHDについて知ってください。
ADHDの特性を知らない人からは「きちんとしつけていないからだ」「愛情不足なのではないか」などと言われるかもしれませんが、それは誤解です。
それらの誤解がADHDの子の育ちにくさ、育てにくさに繋がっています。
まずはADHDについて正しく理解することが大切です。
ADHDとは?
ADHDは発達障害のひとつで「Attention(注意)Deficit(欠陥)/ Hyperactivity(多動) Disorder(障害)」の頭文字をとったものです。日本語では「注意欠陥・多動性障害」、「注意欠如・多動性障害」または「注意欠陥・多動症」と翻訳されています。
ADHDの中にはHyperactivity(多動)がなくADD(注意欠陥障害)と呼ばれる症状もあります。
ADHDは生まれつきの脳のタイプ
ADHDは生まれつきの脳の機能のアンバランスさからくるものとされており、「不注意」「多動性」「衝動性」という3つの特性がある発達障害です。
3つの特性の現れ方や濃淡は人によって異なりますが、その原因とは、脳の前頭葉の活動の偏りから生じているといわれています。
前頭葉とは、人間の脳の中で一番進化が進んでいる部分で、情報の処理、注意の持続、感情のコントロールを司っています。
その前頭葉の中では、神経細胞からドパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が放出され、受容体と結合することで情報を伝達しています。
ADHDの特性は、この神経伝達物質の放出と結合が結びつきにくいために、情報伝達を十分に行えないことが原因ではないかと言われています。神経伝達のトラブルによって、不注意や多動性などの症状が現れてしまうのです。
発達障害の中のADHDの位置づけ
発達障害の中のADHDの位置づけを見る時に、ADHDは独立した障害の種類ではなく、他の障害と重なり合う場合が多いことも特徴です。
以下の図のように、広汎性発達障害(自閉症スペクトラム)との重なり合いや、LD(学習障害)と重なり合う部分があります。
そもそも、発達障害はそれぞれが微妙に重なり合っているので、障害を種類ごとに線引するのは困難です。
ADHDの場合にも、ADHDの特徴だけでなく自閉症スペクトラムや別の障害の特性が重なっていることもあります。
ADHDと間違われやすいのは、とっても元気な子、緊張しやすくて落ち着かない子。あと、親との愛着形成が不十分だったり虐待によって愛着障害になってしまった子です。似た特徴が現れることもありますが、専門家の間ではADHDと愛着障害では姿は似ていても、対応の仕方は違います。
ADHDの3つの特徴
ADHDには、「不注意」「多動性」「衝動性」という3つの特徴があります。これら3つの症状の具体的な内容を見ていきましょう。
特徴1:「不注意」とは
「不注意」とは、気が散りやすく集中が続きにくい状態です。
いろいろなことに気が向いてしまうため、1つのことに集中し続けることが難しく、忘れっぽいといった特性が現れます。
・集中しすぎて切り替えが難しい
・計画を立てたり順序立てて着実に行うことが難しい
・忘れ物やなくし物が多い
特徴2:「多動性」とは
「多動性」とは、じっとしているのが苦手で、常に動き回り、落ち着きがなく、しゃべりはじめると止まらないといった状態です。
脳のアンバランスさの影響で、エンジンに突き動かされるように動いていないと落ち着かないという特性です。
無意識に動いていることも多く、抑えるのは難しいようです。
・気になることがあると行ってしまう
・常に体のどこかが動いている
・話し出すと止まらず一方的に話してしまう
特徴3:「衝動性」とは
「衝動性」とは、感情のコントロールの難しさを指します。
何かをする前に「ちょっと待てよ」と、脳の中でブレーキがきかずに進んでしまいます。考える前に行動してしまいがちです。
・質問が終わる前に答えてしまう
・思い込みでしゃべってしまう
・順番を待てない
・気になったものは触ってしまう
・カッとなると抑えられない
ADHDの療育や治療
ADHDの診断を受けることによって問題が解決するわけではありませんが、お子さんの生まれ持った脳の特性を知り、状態に応じた適切な対応をするための手がかりとなります。
ADHDのあるお子さんの療育や治療は、「心理・社会的治療からはじまる」と言われています。なぜなら、発達障害とは「その人が持っている特性により、生活に支障をきたしているか」が問題だからです。
たとえば、おもちゃの棚にカーテンを付けて見えなくする、パーティションなどを使って外部刺激の少ない空間をつくるなど、余計な刺激の少ない環境づくりをすることで気が散ることを減らせます。
他にも、あいまいな表現では伝わりづらいお子さんには、「きちんと静かに座っていなきゃだめだよ」といった伝え方ではなく「イスに座って膝に手を置きましょう」と、具体的な方法で伝える工夫もできます。
言葉による指示が伝わりづらいお子さんには、絵に描く、順番にならべるなど、視覚的情報にして伝えると本人が理解しやすくなるでしょう。
つまり、ADHDの特性はそのままでも、その子が過ごしやすい環境を整え、生活するうえでの支障がなくなれば、それはもう「障害」と捉える必要はなくなるのです。ADHDの特性を持ちながら社会で活躍している方はたくさんいます。
お子さんの特性を知り、苦手なことは克服するのではなく、より楽になる工夫を見つけることができます。
必要であれば薬による治療も組み合わせている場合もありますが、ADHDは「治す」のではなく、「もともと持っている特性を活かして豊かに生きる」イメージで捉えて下さい。
その補助として療育や医療を用いて、お子さんと関わっていく方法を見つけていくことが大切なのではないでしょうか。
ADHDの子どもたちは、周囲から「乱暴・しつけのできていない子」などという誤解を受けやすく、保護者の方も「育て方が悪いのではないか・・・」と悩んでしまいます。
ADHDを理解して、誤解を訂正したり不安を減らすとともに、お子さんのADHDの特性に適切な対応をすることが必要です
ADHDの診察・相談機関
制度や福祉サービスまとめ
発達障害のあるお子さんの育ちを支える制度や福祉サービスについて、情報をわかりやすくまとめています。
教育や学びに関するまとめ
お子さんの教育に関して役立つ情報をまとめています。
発達に凸凹のあるお子さんが、自分に合った教育や学びをみつけるために、お役立て下さい。
この記事では症状・制度・法律の名称について正しく記載するために「障がい」ではなく「障害」と記載しています。
《この記事の参考にさせてもらった資料》
・田中康雄(2016)「ADHDのある子を理解して育てる本」GAKKEN
・上野一彦、月森久枝(2010)『ケース別 発達障害のある子へのサポート実例集 小学校編』株式会社ナツメ社